月別アーカイブ: 7月 2023

石田梅岩『都鄙問答』読書会を開催します

独学で独自の町人哲学を確立
 京都市中京区の車屋町御池上る東側に「石門心学発祥之地」の石碑があります。江戸時代中期の思想家・石田梅岩(いしだ・ばいがん 1685~1744)が居宅を構え、最初に講義を行った場所です。
 石田梅岩は、丹波桑田郡(現在の亀岡市)の農家に生まれ、京都に出て黒柳家という呉服屋で奉公しながら、儒学などを独学し、「心学」と称する独自の町人哲学を確立しました。黒柳家をやめて、45歳のときに自宅で講義を始めました。
 心学は、勤勉、正直、倹約の大切さを平易に説く実践的な道徳で、商人たちに広く受け入れられました。
 石田梅岩は、当時まだ強かった商人への偏見(他人を騙して儲けているという偏見)に対し、商取引は天下の人びとに尽くす善行であり、商人が利益を得るのは役立った人びとから得る正当な報酬だと説いたのです。ピーター・ドラッカー(1909~2005。「経営の神様」とも呼ばれた経営学者)より250年早い経営哲学とも称されます。
 他人に対して分け隔てなく公正に、正直に、誠実に接するのが「商人道」です。江戸時代から明治時代にかけて活躍した近江商人も「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)の理念を持っていたことがよく知られています。

『都鄙問答』読書会を開催します
 コロナ禍は、これまでの経済社会のあり方の限界を明らかにしました。大量生産・大量消費・大量廃棄を前提に、効率性を追求する資本が世界中を暴れまわり人間性を犠牲にする経済社会から、地域でお金と仕事をぐるぐる循環させて人間らしい暮らしを可能にする地域循環型経済社会へ転換していくことが求められています。「三方よし」の精神で人びとに喜ばれることを第一に心がける自営業者は、地域社会にとってなくてはならない存在です。
 中京民商事務局ではこの秋、京都市中京区ゆかりの江戸時代の思想家・石田梅岩の主著『都鄙問答』(とひもんどう)の読書会をやります。 梅岩の講義が誰でも聴講無料だったことにならって、中京民商会員でなくても無料で参加できるようにしました。 関心のある方、ぜひご連絡ください!

石田梅岩『都鄙問答』読書会

第0回 8月28日(月) 午後7時~午後8時30分  石田梅岩の生涯と思想  

第1回 9月19日(火) 午後7時~午後8時30分  『都鄙問答』巻の一

第2回 10月17日(火) 午後7時~午後8時30分  『都鄙問答』巻の二

第3回 11月21日(火) 午後7時~午後8時30分  『都鄙問答』巻の三

第4回 12月19日(火) 午後7時~午後8時30分  『都鄙問答』巻の四

* 会場はいずれも中京民商会館3階(両替町通竹屋町上る)です。

* 加藤周一訳・解説『都鄙問答』(中公文庫、定価968円)を使用します。

* どなたでも無料で参加できます。資料準備の都合上、参加を希望される方は、各回の前週金曜日までに、中京民商事務局(電話 075-231-0101  mail tax-110アットマークiaa.itkeeper.ne.jp)までご連絡ください。

『京都 中京民商 商人・職人 生活史』増刷記念トークイベント(オンライン)開催!

 京都・中京民商は、昨年2022年で創立70周年を迎えました。これを記念して『京都 中京民商 商人・職人 生活史』という本を限定制作しました。参考にしたのは社会学者の岸政彦さんが編集された『東京の生活史』です。『質的社会調査の方法』や『壮快』に載った岸政彦さんインタビューも参考に、会員から「聞き手」を募集、事務局を含む9人が34人の「語り手」となった中京民商会員から聞き取りました。

 原稿の校正・校閲、掲載されている写真の撮影、本の装丁など、すべて中京民商会員の手によるものです。

 古都・京都のど真ん中で、様々な仕事に携わってきた商人・職人たちが語るそれぞれの物語のおもしろさに、予想を超える大反響をいただきました。この本をより多くの人に届けるため、増刷に向けたクラウドファンディングに挑戦中です(7月25日23時59分まで)。

 増刷を記念してトークイベントを開催することになりました。9月26日(火)19時~20時半、オンライン配信(zoom)します。

 そもそもなぜこの本を作ることになったのか。語り手、聞き手は何を感じたのか。本づくりの経験のないメンバーばかりで、どうやってこのような本の形にしていったのか。語り手、聞き手、編集委員が語り合います。

 民商会員だけでどうやって本を作っていったのか興味があるという全国の民商関係者のみなさん、また『生活史』の本づくりに挑戦してみたいというみなさん、ぜひお申し込み下さい!

 増刷に向けたクラファン支援のリターンとしての受付になります。

 トークイベント試聴のみ…1,500円

 本1冊+トークイベントのセット…3,300円

 7月25日(火)23時59分まで。クラウドファンディングの支援が伸び悩んでることを受けて急遽追加したリターンです。急なお知らせで大変に申し訳ないのですが、ぜひともよろしくお願いします!

 【支援の仕方について】

① 「プロジェクトを支援する」と書いてある赤い部分を押すと、支援のお礼(リターン)が選べるページに飛びます。

② 本1冊1,800円だけでなく、金額ごとにいろんなお礼(リターン)を用意しています。どれか選んでいただき、金額の左側の□を押すとチェックが入り、それを選択した状態になります。

③ 「アカウントをお持ちの方はこちら」と出てきます。これは、すでにこのCAMPFIREのサイトに登録している方のことです。そうでない方は、「まだアカウントをお持ちでない方はこちら」のところに、普段使っているメールアドレスを入力して「支援を続ける」という青緑色の部分を押してください。

④ すると、そのアドレスが本当にご自身のものなのか確認するため、CAMPFIREからそのアドレスにメールが届きます。確認してください。

⑤ 送られてきたメールには「下記のボタンから支援を続けてください」とメッセージが書かれています。「支援を続ける」という緑色の部分を押すと、先ほどリターンを選んだページに戻ります。

⑥ ページの下のほうに進んでいくと「支援金額」が確認できるところが出てきます(上乗せも可能です)。

⑦ さらに下に進むと「お支払方法」が出てきます。手軽なのは「クレジットカード」ですが、難しければ「コンビニ」決済がオススメです。

⑧ お支払方法を選ぶと、決済するのに必要な情報を入力していく画面に進みます。さらに下のほうに「確認画面へ」と書かれた緑色の部分があるので、入力が終わればそこを押してください。

⑨ 支援の内容が合っているか確認して「この内容で支援する」という緑色の部分を押せば終了です!

「商人道シンポ」開催しました!

見も知らぬ他人にも誠実に

 7月9日(日)、こどもみらい館において「商人道シンポジウム」が開催されました。『商人道ノススメ』(藤原書店)の著者である松尾匡さん(立命館大学教授)と3人の民商会員が商売と地域社会との関りについて語り合いました。中京民商と北民商、上京民商の共催です。

 まず、松尾さんが「甦れ商人道」というタイトルで基調講演しました。松尾さんは「内と外を二分し、集団の中は安心だけどよそ者は危険とみなして、身内に忠実であろうとするのが武士道。これに対して、見も知らぬ他人を広く相手にして、他人をとりあえず信頼し公平に誠実であろうとするのが商人道。市場取引に適合的な倫理観は商人道なのに、武士道的な倫理観を掲げて市場取引に関わると様々な歪みや腐敗が生じてしまう」と説明しました。

商売とは生活そのもの

 続いて、3人の民商会員が報告しました。

 1人目は「薮内建築商店」の薮内大観さん(北民商)。薮内さんは「商売とは生活そのもの。相手のニーズをつかんでサービスを提供することで喜んでもらい、感謝されること。そのことに自分自身が喜びを感じ、誇りに思うこと。これを繰り返すことでこの社会で生きていく。それが商売の本質だと思う。金銭の授受があろうがなかろうが、人と接してお互いが喜び、癒され合って生きていく。商売、生活、生きるとはそういうことではないか」と語りました。

 2人目は「柔道整復 創健堂」の榊原孝文さん(上京民商)。榊原さんは、現在の医療が患者さんの「早く治してほしい」という思いに寄り添いきれていないことを指摘。「自動車修理なら直らなかったら代金はもらえないが、医療なら治らなくても売上になってしまう。これが歪みを生んでいる。不必要な治療に頼らず、患者さんに寄り添った仕事をしていきたい」と語りました。

 3人目は「くっきんぐえくすぺりめんと 番」の野澤裕則さん(中京民商)。野澤さんは「地域の子どもが来やすいお店をコンセプトにしている。自分の子どもができたとき、小さい子どもを連れて外食することの難しさを痛感したのがきっかけ。商売において一番大切なのは、子どもたちに何を残してあげられるかだと思う。昔ながらの健康になれる日本食、『インスタ映え』のような見た目重視でなく、心の中が映えるような料理を伝えていきたい」と語りました。

世の中の人を幸福にし続けることが究極

 松尾さんは薮内さんの話について「ボランティアは他人の役に立つことで報酬をもらえるという商取引の延長。いただくものが金銭でなくても、他人に喜んでもらうこと自体が見返りになるというのも、広い意味での商取引と言えるのではないか」とコメントしました。また、榊原さんの話については「『医療は反営利的なものでなければならない』という建前でつくられた仕組みが弊害を生み出しているのではないかと考えさせられた。本当に相手のニーズに応えることの大切さを再認識した」とコメントしました。

 野澤さんの話については「『心の中が映える』という話から、自分の価値観とか理念を受け取ってもらい世の中に広げていくことが究極の目的になるんだということを感じた。プロテスタンティズムでいう魂の救済とか、近江商人が信仰していた浄土真宗でいう極楽往生とかは、合理的に解釈するならば、自分のアイデンティティをかけた工夫が自分の死後も残って世の中の人びとを幸福にし続けることを意味するのだと思う」と語りました。

地域から商人道を広げていこう

 参加者からは「私の故郷では、魚売りの行商のおばあちゃんが、カギの掛かっていない家に入って、持ってきた魚をその家の包丁とまな板でさばいて、そのさばいた魚を冷蔵庫に入れる。『○月×日、鯵』というふうに帳面に付けておいて、月末にまとめてお金をもらう。そういうおばあちゃんがいた。京都で小さな商いをしている私も、それくらい信用されるような自分でありたいな、と心がけている」という発言がありました。

 また「以前勤めていたところが、身内を固めるというやり方がきつすぎて意見を言っても通らず、しんどくなってやめた。今はフリーランスで、いろいろな業種の事業者と関わる仕事をしているが、自分で働き方を決められるし、視野も広がって楽しい。日本社会が、もっともっと自分で小さな商いを始めようという人が出てくる状況になればいいと思う」という意見も出されました。

 松尾さんは「日本では大企業など身内集団原理が強すぎてがんじがらめになってしまっている状況がある。みんなが『なぜこの仕事が必要なのか』『この仕事でどういうふうに人に喜んでもらえるのか』ということを自分で考えられるような社会に変えていく必要がある。それなのに、インボイスの実施などで、人に喜んでもらうため自分の創意工夫で働く小規模事業者が淘汰され、大きくて強い会社の利益追求のためにみんながこき使われるだけの社会になってしまいかねない状況がある。地域での人と人のつながりを大切に、こうした流れに対抗して商人道を広げていきたい」 とまとめました。

倉敷民商の禰屋町子さんを知っていますか?――「中京の会」第6回総会のお知らせ

 中京民商も加わる「倉敷民商弾圧事件・3人の無罪を勝ち取る中京の会」は、7月14日(金)、18時半より、ハートピア京都において、第6回総会を開催します。事前予約なしでどなたでも無料で参加できます。

禰屋さんは脱税を手助けしていない
 倉敷民商事務局員の禰屋町子さんは、2014年1月21日の早朝、自宅で寝ているところを突然逮捕されました。禰屋さんは、連日の取り調べで「倉敷民商会員の建設会社の脱税を手伝ったことを認めろ」「税理士でもないのに申告書の作成に関わったのは税理士法違反だ」と言われ続けましたが、そんな事実はないと黙秘を続けました。
 禰屋さんは、暖房も冷房もないカビ臭い三畳に閉じ込められ、まずい食事、週2回15分だけのお風呂、家族にも会えない日々が続きました。裁判が始まっても保釈されず、不当な拘束は428日間(1年2ヶ月)も続きました。
 禰屋さんは裁判で、脱税を手助けした事実はない、建設会社は(売上の計上がずれるなど小さなミスはあったものの)そもそも脱税していない、と訴え続けました。岡山地裁では残念ながら有罪の判決が出ましたが、広島高裁は2018年1月、検察側が脱税の証拠だと主張するものが不適切だとして、裁判をやり直すように命じる判決を出しました。しかし、禰屋さんが脱税に関わったことをどのように立証するのか、検察側がまともな計画を立てることができなかったために、裁判の開始が遅れていました。今年ようやく、岡山地裁での裁判が始まりました。

裁判の見通しは?
 今回の総会では、全国連絡会が作成した動画をもとに、どういう事件だったのか、何が問題になってきたのか、事務局より分かりやすく解説します。また、7月4日に行われた公判を傍聴した事務局メンバーより裁判の様子を報告します。
 ぜひご参加ください!

商いも共感されることが大切――「中商サロン」でアダム・スミスの思想を学ぶ

プレミアムフライデーの午後3時から
 中京民商では、毎月最終金曜日(プレミアムフライデー)の午後3時から、中京民商会館の3階で「中商サロン」を行っています。美味しいお茶やコーヒー、お菓子を楽しみながら、おしゃべりする会です。会員だけでなく誰でも参加できます(非会員は参加費500円)。毎回、事務局から話題提供を行っています。

利己的な人間がよい社会をつくれるか
 6月30日(金)の「中商サロン」には7人が参加。今年6月5日で生誕300年を迎えたスコットランドの哲学者、アダム・スミスについて、事務局より報告が行われました。
 スミスは一般的には『国富論』を書いた“経済学の父”として知られています。個々人の自由な行動が「見えざる手」により社会全体の利益に導かれると主張して市場原理の大切さを説いたとされます。一方で、最近では『道徳感情論』という本で他人への共感の大切さを説いていたことも知られるようになってきました。
 スミスが生きた18世紀のイギリスは、政治的な面では議院内閣制が成立し、経済的な面では産業革命が始まった時代です。従来の封建的な道徳が崩れていくなかで、人間性や道徳のあり方(富と徳との関係)が大きな問題になっていました。利己的な存在である人間は、社会の秩序を保ちながらよりよい社会へ発展させていくことができるのかが問われた時代だったのです。

他人に共感してもらえることが大切
 こうした問題意識で学問に志したスミスは、天文学や生物学など自然科学の成果にも学びながら、想像力や共感(想像の世界で相手の立場に立ってみること)を重視する学問論を確立しました。スミスは、人間の本性を、利己的であると同時に他人のことにも関心を持たずにはおれないという矛盾したものとして把握しました。他人からの共感を切望する人間は「他人の目から見て自分はどう見えるか」を気にせずにはいられません。人間は、他人との関わりのなかで、自分の心のなかに自分自身を客観的に見つめる視点(公平な観察者)を創り出し、自分自身の言動を他人から共感してもらえるようなものにしていきます。商行為も例外ではありません。自分の儲けのためなら他人を食い物にしてもいいということはないのです。

「見えざる手」は弱肉強食と真逆の思想
 「見えざる手」という言葉は、この世界(宇宙全体)はもともと調和のとれたものであるはずだという信念を背景にしたもので、弱肉強食の市場経済を肯定するようなものではありません。スミスは『国富論』で、一部の特権的な大商人の利益のために経済の自然なあり方が歪められ、庶民の生活に必要なモノが不十分にしか生産されていないことを批判する文脈で「見えざる手」の大切さを説いています。あくまでも、すべての人びとの豊かな生活を実現することが目的だったのです。
 参加者からは「アダム・スミスについてはほとんど知らなかったけど、18世紀にこんなことを考えていた人がいたというのが興味深かった」という感想が出されました。

次回「中商サロン」は7月28日
 次回の「中商サロン」は、7月28日(金)午後3時からです。中商サロンは、誰でも自由に参加できます。中京民商会員は参加無料、それ以外の方は参加費500円をいただきます。準備の都合上、参加ご希望の方は事前にご連絡いただきますと助かります。

お菓子は6月30日だったので豆政さんの水無月でした。写真は黒糖です。お皿は上坂妙さん作。

商人道シンポ、開催します!

 人間関係のつくり方にはふたつあります。

 一つは、身内集団をつくって、なるべくその内部で済ませる。外部の人はとりあえずリスクだと見なしておく。この場合、身内の裏切りが最大の悪なので、身内集団への忠誠心をアピールすることが大事になります。これに対応した倫理が武士道(身内への忠実)だとされます。

 これに対して、市場取引など流動的な人間関係の場合は、誰を相手にするか分かりません。だから、たいていの人間は善良だと見なしたうえで、危険と思ったら取り換えるということになります。その場合は、正直さや公平さをアピールすることが大事になります。これに対応した倫理が商人道(他人への誠実)だとされます。

 従来の常識・やり方が通用しなくなるこれからの時代、必要なのは武士道(身内への忠実)ではなくて商人道(他人への誠実)ではないでしょうか。

 商人道に徹した小規模事業者こそ、地域の経済・社会を支え、日本、世界を救う存在といえます。『商人道のススメ』(2009年、藤原書店)著者の松尾匡さんと、古都・京都のど真ん中で頑張る商人・職人が縦横に語ります。

 どなたでも無料で参加できます(事前申し込み不要)。