商売を語る会「Wish hair & craft 安藤敏宏さん」詳報(上)

安藤さんHP用

京都で美容室を開くまで

私は岡山県美作市の出身です。母が美容室をやっていましたが、もともと自分も美容師になろうというつもりがあったわけではありません。高校生のとき、卒業後の進路についての面談があったんですが、どういう職業に就きたいのか何も思いつかなくて、「インテリアコーディネーター」といったんですね。特に理由があったわけではなくて、単に名前がカッコいいからです。でも、先生には「うちの学校にはそういうツテがないから自分で探してね」といわれて困ってしまいました。それで、2回目の面談のときに、「安藤君、お母さんが美容師なんだから何かツテがあるでしょう。そのほうが楽だよ」といわれました。その「楽だよ」という言葉が耳に残って、美容師になろうと思ったんですね。そういうわけで、母の懇意にしている東京の美容室に就職することになりました。250人ぐらいの美容師を抱える大きな美容室です。
でも美容師を目指していたわけではないので、「ロット」とかの基本的な用語も知らず、苦労しました。しかも、不器用だったので、なかなか大変でした。あるとき、70歳ぐらいの女性のお客さんに「あんた不器用で美容師に向いてない。やめたら」といわれてしまいました。そのとき私は、若さの勢いで「あなたに指名されるような美容師になったげます」といってしまったんですね。「なったげます」とは偉そうですが、そういったんです。それで、退職して、ロンドンへカットの勉強に行きました。ヴィダル・サスーンという人のサロンで修行をしました。
せっかくロンドンまで修行しに行ったのに岡山の片田舎に帰るのもなあ……と思っていたところに、もとの美容室に誘われて、また東京に戻ってきました。上品な層のお客さんの多い美容室で、大変に有意義な東京時代でした。
京都で今のお店を開くことになったきっかけですが、バイト先のサロンの先生に、「安藤君もいい年なんだから、自分で店出しなよ」といわれたことです。この言葉に背中を押されて独立を決意しました。それで「美容室をやめます」となったときに、あるお客さんから「京都までの新幹線代を稼いでいきなよ」と声をかけられました。友人に声をかけて家に集めるから、カットしてお金をもらったら、というわけです。その集められた友人のなかに、前に私に「美容師やめたら」といった人の娘さんがいたんですね。不思議な縁を感じました。

仕事のなかで考えていること

仕事のなかで大事にしていることについていくつかお話したいと思います。
1つ目は、ファッションと健康との接点を意識するということです。女性にとって髪は大事なものですが、ファッション性を重視してキレイな色に染めるとすると、場合によっては髪の毛にダメージを与えることになる。逆に、髪の毛の健康を重視するならば地味になりがちです。店としてどちらか一方に偏ってしまうと、客層も偏ってしまうことになりますから、偏りすぎないように、ファッションと健康の接点を意識しながら仕事をしています。
2つ目は、髪の毛と地肌の未来を考えるということです。お客さんの髪の毛と地肌の現状をふまえつつ、どういう手入れをしているかを聞きながら、どうすれば長くキレイな地肌と髪でいられるかをお話をするように心がけています。うすらボンヤリとでも未来に希望が見えるようなアプローチをする――これはとても大事なことだと思っています。
3つ目は、お客さんにひとつでも知識を増やしていただくということです。お客さんは、まずはカットなりパーマなり何かの技術を受け取るために来ているわけですが、それにプラスして、世間話だとかリラックスした時間とかも求めている。あわせて私が考えているのは、ひとつでも賢くなって帰ってもらおう、ということです。私は美容のプロであるわけですから、シャンプーの選び方とかトリートメントの仕方とか、自分の持っている知識を極力はき出していこうと心がけています。例えば、市販のシャンプーに比べて美容室のシャンプーは高価ですが、それは材料が違うからです。同じコラーゲンでも純度の高さと配合量が違う。だから、毛染めをした場合に、市販のシャンプーなら1週間ぐらいで色が褪せてしまうのに、美容室のシャンプーならぐんと長持ちする。そういうことも知ってもらいたいと思っています。

4つ目は、美味い・不味いは自分の舌を信じる、ということです。例えば、インターネット上に「食べログ」というものがあって、色々な飲食店についてのコメントが書き込まれているわけですが、それをそのまま鵜呑みにしてはダメなんですね。人が美味いといっているものでも自分で食べてみるとそれほどでもないかもしれない。私は、他人の受け売りではなく、自分で試した結果をお話しするように心がけています。実際に自分でやってみた結果というのは説得力があります。
5つ目は、良い思うことはお勧めするが、全ての方が自分と同じ思い・考えではないことに気をつける、ということです。いいモノを仕入れると「これだけ!」に陥りがちですが、いくら良いものであっても、興味を持ってもらえなければ受け入れてはもらえません。押し売りにならないように、あくまでも選択肢のひとつとして提示するという姿勢に徹しています。
6つ目は、上手くいかないとき、問題があったときは考える方向を変えてみる、ということです。お客さんに十分には満足してもらえなかったな、と感じることはあります。「あそこの5本を切り残してしまったのが良くなかったかな」とか考え始めると、夜も眠れなくなります。人間の髪の毛は10万本あるといわれますが、そのうちの数本を残すかどうかということを考えながら仕事をしていると、確かにしんどくなることがあります。上手くいかなかったときは、ひとつの方向で考えるのではなく、いろいろな方向から考えてみるようにしています。そして、これまでのやり方を変えてみる。フレキシブルに、ポジティブに考えるように心がけています。

安藤さんHP用2

コメントは受け付けていません。